Session 1.統計はなぜ必要か?
執筆・監修
獨協医科大学越谷病院 麻酔科 教授 浅井 隆 先生
- 現在、エビデンスに基づく医療をすべきですが、それをするには、各々の医療従事者が論文、すなわち医学研究の報告書を読んで、エビデンスとして使えるかどうかを判定する必要があります。そして、その時に統計の知識がなくては、研究結果を正確に読み取ることができません。そのため、研究をして統計を使う人のみならず、統計を実際に使わない人も、論文で報告されている統計結果を正確に読み取る能力を身につける必要があります。
- では、そもそも統計はなぜ必要となるのでしょうか? 例えば、「日本のサラリーマンの平均年収は近年下がってしまっている」と言われていますが、実際にそうなのかどうかを確認する研究があったとしましょう。その場合、例えばある5年間の平均収入(平成14~18年)と、その前の5年間(平成9~13年)を調査して、比較することによって確認が可能です。
- サラリーマンの平均年収は国税庁が「民間給与実態統計調査結果」で出していますから、それを使うとつぎのようになります。
- これを見ると、過去5年間(平成14~18年)の年収は、その前の5年間(平成9~13年)の年収に比べて下がっています。ではこれらの数値から、「平成14~18年の一般サラリーマンの平均収入は、その前の5年間(平成9~13年)に比べ本当に下がったのか?」という疑問に対して、「本当だ」と判断していいのでしょうか? 答えから言うと、この場合には「本当」としてよいことになります。というのは、これらのデータは国税庁の出したものですので、全国すべての一般サラリーマンの収入を調べたものとなり、信頼性が最も高いからです。
- さて、医学研究の場合、上の例のように対象となる人のすべての人を調査することはまれです。多くの場合、対象となる人の一部の人を対象者として研究を行い、その結果を基に、対象となり得るすべての人に通用する結果かどうかを判断する必要が出てきます。例えば、「成人女性がゴマを1週間食べると、血中コレステロールが低下するのか」どうかについて研究するとしましょう。その場合、すべての成人女性でデータを取ることはありません。成人女性の一部の人を対象として研究をすることになります。
- そしてある研究で、成人女性の8人を対象者として選び、その人たちを2グループに区分して、1グループの人にはゴマを食べてもらう、他方のグループの人にはゴマを食べないようにしてもらい、1週間後の血中コレステロール値をグループ間で比較したとしましょう。その結果がつぎの通りだとします。
- さて、この結果をどう解釈しますか?「うわっ、すごい!さっそく買いに行ってゴマを食べよう!」と思いますか?
大多数の人は「え~そうなの? それって差があるとは言えないよね~」と思うはずです。なぜなら、「コレステロール値が低下した3人対1人は偶然に起こったに過ぎない」かもしれないからです。 - ではつぎの例はどうでしょう。
- もしこういう結果が出た場合、「両グループ間に差があり、ゴマを食べることにより血中コレステロール値が低下した」と判断するはずです。なぜなら、ただの偶然では300人対100人にはならないはずだからです。そのため、対象者400人から得られた結果から、この世に存在する成人女性は、ゴマを食べると血中コレステロール値が低下する可能性が高い、と判断できるはずです。
- ではつぎの例はどうでしょう?
あるいは
- これらの場合、グループ間に差があるかどうかの判定はむずかしくなってきます。このように、直感的に判断がしにくい時に比較の統計を用いると、グループ間に差があるのかどうかを客観的に判定することが可能となります。
- ここで統計のポイントをまとめるとつぎのようになります。
そして、統計法は大きく3種類あります。
これからのシリーズでは、つぎの統計について説明します。
- 第2セッション: 記述統計
- 第3セッション: 検定
- 第4セッション: 推定
- 第5セッション: 検定と推定の関係
参考資料
- この内容は、「いまさら誰にも聞けない. 医学統計の基礎のキソ1-まずは統計アレルギーを克服しよう!」(浅井隆著)からアトムス出版の許可の上、引用、改変しています。