全身麻酔薬や局所麻酔薬の性質と作用機序の解説や、気をつけたい合併症・偶発症についての解説を全10話に渡ってご紹介いたします。
監修
札幌医科大学医学部麻酔科学講座 教授 山蔭 道明 先生
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局所麻酔に関連し、まれに生じるショック症状、ならびにその原因となることがあるアナフィラキシー(様)反応についてみていきましょう。
ショック症状
- ショック症状とは、臓器の血流不足によって生じる急性症状群(末梢血管虚脱、静脈還流量減少、心拍出量低下など)のことをいいます。
- キシロカイン製剤(リドカイン製剤)を用いたときに発生したショック症状を総称して、「キシロカインショック」と呼ぶことがあります。この原因は、過敏症の一種、つまりアナフィラキシー(様)反応と考えられがちです。
- しかしながら、「キシロカインショック」と呼ばれる、キシロカイン製剤使用時のショック症状の原因は、アナフィラキシー(様)反応だけでなく、さまざまな原因が考えられることから、詳細な問診や類似の症状との鑑別が大変重要となります。
- ショック症状の一般的な対処法は、気道確保、酸素投与、人工呼吸管理、輸液、昇圧薬投与(第一選択薬はアドレナリン)です。原因が過敏症であれば、原因と考えられる薬物の投与中止も必須となります。
※薬剤のご使用の際は、各製品の添付文書をご確認ください。
局所麻酔製剤の使用に関連して発現するショック・ショック様症状
- 局所麻酔製剤の使用に関連して発現するショック(様)症状の原因としては、アナフィラキシー(様)反応だけでなく、血中局所麻酔薬濃度の上昇によって生じる中毒性ショック、局所麻酔薬による神経ブロックに伴う血圧低下、意識下で行う侵襲的処置(歯科治療や内視鏡検査など)に対する精神的ストレスなどが原因となる場合もあります。
- 頻度としては、局所麻酔薬中毒が多いとされており、現在多く用いられているアミド型局所麻酔薬ではアナフィラキシー(様)反応はきわめて少ないとされています。
- 両者のおもな相違点としては、局所麻酔薬中毒では中枢神経系症状(舌のしびれやふらつき、筋攣縮など)が先行することが多い点と、アナフィラキシー(様)反応による皮膚症状(皮膚の紅潮や皮疹など)は局所麻酔薬中毒では通常現われない点が挙げられます。
※薬剤のご使用の際は、各製品の添付文書をご確認ください。
アナフィラキシー(様)反応
- アナフィラキシー(様)反応は、即時型アレルギー・過敏症反応の1つです。
- アナフィラキシー(様)反応の症状に、皮膚の紅潮や皮疹、呼吸困難、チアノーゼ、血圧低下、冷汗などが挙げられます。血圧低下が著しい場合、ショック症状が発生します。
- アナフィラキシー(様)反応が起こるきっかけ(トリガー)として、ハチ毒や食物のほか、薬物、薬剤の添加物などが知られています。
- 局所麻酔製剤使用時に関連するアナフィラキシー(様)反応のトリガーは局所麻酔薬自体とは限らず、局所麻酔製剤の添加物(バイアル製剤のメチルパラベンなど)や、局所麻酔施行時に使用する消毒剤、手袋の素材のラテックスなどもあります。
- 局所麻酔製剤使用時に関連して発現するショック・ショック様症状の原因としては、前述の通りアナフィラキシー(様)反応よりも局所麻酔薬中毒が多く、意識下で行う侵襲的処置に対する精神的ストレスなどが原因となる場合もあることから、術前診察時の詳細な問診がアナフィラキシー(様)反応の予防法として最も重要かつ有効な方法となります。
※薬剤のご使用の際は、各製品の添付文書をご確認ください。
参考資料
- 齋藤和彦:Lisa, 6(9), 908-911(1999)