全身麻酔薬や局所麻酔薬の性質と作用機序の解説や、気をつけたい合併症・偶発症についての解説を全10話に渡ってご紹介いたします。
監修
札幌医科大学医学部麻酔科学講座 教授 山蔭 道明 先生
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全身麻酔に関連する合併症・偶発症にはどのようなものがあるのか、また、その予防法や対処法はどのようなものなのかをみていきましょう。
全身麻酔に関連するおもな術中合併症・偶発症と術前診察
- 術中麻酔法や鎮痛法の選択に必要な情報を得るために術前診察(麻酔前診察)が行われますが、合併症・偶発症リスクを減らすための情報も含まれます。
- 術前診察で、麻酔前指示がなされます。
- 絶食・絶飲:胃の内容物があると、麻酔中に吐いて、気管に入り、肺炎を生じることがあります(誤嚥性肺炎)。これを防ぐために、通常、麻酔前の一定時間は絶食、絶飲するように指示がなされます。
- 禁煙:喫煙者では、術後に咳や痰が多くなります。すると、肺炎が生じやすくなり、咳によって傷の痛みも強くなるので、なるべく早期からの禁煙の指示がなされます。
局全身麻酔に関連するおもな術中合併症・偶発症
- 歯牙損傷:気管挿管時や、歯を食いしばる際に、ぐらついていた歯や義歯(入れ歯)が損傷することがあります。
- 気管支痙攣(喘息発作)・喉頭痙攣:揮発性吸入麻酔薬や気管チューブによる刺激によって、気管支痙攣や喉頭痙攣が起こることがあります。
- 蕁麻疹・呼吸困難:麻酔薬や消毒薬などに対するアレルギー反応によって、蕁麻疹や呼吸困難が生じることがあります。
- 筋硬直・発熱:薬物投与をきっかけに、筋肉が硬直したり、高熱が生じたりすることがあり、これを悪性高熱症といいます。
薬剤のご使用の際は、各製品の添付文書をご確認ください。
全身麻酔に関連する術後に現れるおもな症状・合併症
帰室後に意味なく手足を動かす
- 残存麻酔薬による症状で、すぐに解消します。
喉の痛み・かすれ声・発声困難・むせ等
- 喉の痛み・かすれ声:気管挿管時に声帯が傷つくことにより、喉の痛みやかすれ声(嗄声)が生じることがあります。多くは、数日で自然治癒します。
- 声帯肉芽腫・反回神経麻痺:気管挿管時に声帯が大きく傷つき、肉芽腫が生じたとき、または声帯を動かす反回神経麻痺が生じた時、発声困難やむせを生じます。多くは自然治癒しますが、回復に時間がかかります。
呼吸困難、咳、発熱等
- 誤嚥性肺炎:麻酔中に、胃の内容物が気管に入り、重篤な肺炎を生じることがあります。
- 無気肺:術後、痰がたまって、気管支の一部を閉塞し、肺の一部に空気が入らない状態になることがあります。放置しておくと、肺炎につながります。痰を吸引して気管支閉塞を解消します。
呼吸困難、胸痛等
- 肺血栓塞栓症:長時間同じ体位を続けることで、下肢静脈等で生じた血栓が、血流にのって移動して、肺の血管に詰まり、その結果、呼吸困難や胸痛、ときには重篤なショックを引き起こすことがあります。
- 薬剤のご使用の際は、各製品の添付文書をご確認ください。
参考資料
- 「標準麻酔科学 第5版」医学書院, 2006
- 「麻酔科学スタンダード 1.臨床総論」克誠堂出版, 2003
- 「麻酔のしおり」社団法人日本麻酔科学会, 2006