第2話 全身麻酔薬
全身麻酔薬や局所麻酔薬の性質と作用機序の解説や、気をつけたい合併症・偶発症についての解説を全10話に渡ってご紹介いたします。
監修
札幌医科大学医学部麻酔科学講座 教授 山蔭 道明 先生
このページの画像をダウンロードいただけます。
ZIP形式 303KB
- ダウンロード [4]
大手術(侵襲の大きな手術)では通常、全身麻酔を用います。全身麻酔には、吸入麻酔と静脈麻酔がありますが、それぞれ使用する麻酔薬や施行手順についてみていきましょう。
おもな吸入麻酔薬と作用機序
- 吸入麻酔薬は肺胞で血液に移行し、血流に乗って脳内に運ばれ、脳組織に移行します。
- 吸入麻酔薬の作用部位は脳ですが、詳しい作用機序は分かっていません。
- おもな吸入麻酔薬として、セボフルラン、イソフルラン、亜酸化窒素が挙げられます。
吸入麻酔施行の標準的な手順(セボフルラン使用時)
- (1)麻酔導入:おもに、静脈投与路が確保されているときは急速導入法、そうでないときは緩徐導入法がよく用いられます。その他、術式・術野や患者状態に応じて、様々な導入法などが用いられます。
- 急速導入法:マスクによる酸素投与を開始し、静脈麻酔薬を投与して入眠させます。入眠後、筋弛緩薬を静注し、筋弛緩を得ます。気管挿管し、吸入麻酔薬投与を開始します。
- 緩徐導入法:マスクによる酸素投与を開始し、続いてセボフルランを、濃度を上げながら投与して入眠させます。入眠後に、筋弛緩薬を静注し、筋弛緩を得ます。その後、気管挿管します。
- (2)麻酔維持:通常、セボフルラン濃度は固定します。術中の侵襲ストレスの増減に対しては、鎮痛薬投与で調節する方法がよく用いられます。筋弛緩薬は適宜使用します。
- (3)麻酔終了時:セボフルラン投与を中止し、覚醒後、一定の条件を満たせば、抜管します。
- ※薬剤のご使用の際は、各製品の添付文書をご確認ください。
おもな静脈麻酔薬と作用機序
- 静脈麻酔薬は、血流を通じて作用部位である脳に到達し、麻酔作用を発揮します。作用機序は薬物によって異なります。
- プロポフォール:GABA(γ-アミノ酪酸)の作用を増強することで作用を発揮するとされます。
- バルビツール酸類(チオペンタール、チアミラール等):GABAA受容体にGABAとは異なる結合部位を持ち、GABAの作用を増強することで作用を発揮します。
- ケタミン:興奮性アミノ酸伝達物質に対する受容体であるNMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)受容体に対する拮抗薬として、作用を発揮します。
静脈麻酔施行の標準的な手順(プロポフォール使用時)
- (1)麻酔導入:静脈投与路を確保後、シリンジポンプ等を用いて、プロポフォール投与を開始します。入眠後、筋弛緩薬を投与し、気管挿管し、人工呼吸管理を始めます。プロポフォールには鎮痛作用がないので、鎮痛薬を併用します。
- (2)麻酔維持:プロポフォールは麻酔とくに催眠深度の調節性に富みます。術中の患者のバイタルサインの変動に応じて、プロポフォール投与速度を増減したり、鎮痛薬を使用したりします。プロポフォール投与速度の調節には、シリンジポンプからの投与速度を変更する方法とは別に、TCIという投与法も頻用されます。
- TCI(target-controlled infusion):シリンジポンプの投与速度を、薬物動態モデルを用いて制御して、目標血中薬物濃度に達するように投与する方法です。
- (3)麻酔終了時:プロポフォール投与を中止し、覚醒後、一定の条件を満たせば、抜管します。
- ※薬剤のご使用の際は、各製品の添付文書をご確認ください。
参考資料
- 「標準麻酔科学 第5版」医学書院, 2006
- 「麻酔科学スタンダード 1.臨床総論」克誠堂出版, 2003