第6話 局所麻酔薬-3(硬膜外麻酔)
全身麻酔薬や局所麻酔薬の性質と作用機序の解説や、気をつけたい合併症・偶発症についての解説を全10話に渡ってご紹介いたします。
監修
札幌医科大学医学部麻酔科学講座 教授 山蔭 道明 先生
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局所麻酔のうち、麻酔区域を限定しやすい硬膜外麻酔をみていきましょう。硬膜外麻酔に用いたカテーテルから薬液を持続注入することにより術後鎮痛に使える点も有用です。
硬膜外麻酔の作用機序と特徴
- 硬膜外麻酔では、硬膜外腔に局所麻酔薬を注入し、脊髄神経を可逆的に遮断する麻酔法です。
- 硬膜外麻酔の一般的な長所は次の通りです。
- 術中に意識を保てる。
- 筋弛緩作用が得られる。
- 持続投与ならびに間欠投与が可能で、長時間の手術に用いることができる。
- 呼吸機能への影響が少ない。
- 分節麻酔(手術部位を支配する神経分節だけの遮断)が可能である。
- 術後の鎮痛に応用できる。
- 硬膜外麻酔の一般的な短所は次の通りです。
- 脊髄くも膜下麻酔に比べて神経遮断作用が弱く、効果が現れるのが遅い。
- 副作用として、血圧低下傾向、徐脈傾向が現れることがある。
- 大量の投与や硬膜外腔の血管内誤注入によって局所麻酔薬中毒が起こることがある。
※薬剤のご使用の際は、各製品の添付文書をご確認ください。
硬膜外麻酔に用いる局所麻酔薬の特徴
- 硬膜外麻酔に現在よく使用されている局所麻酔薬には、ロピバカイン0.75、1%、ブピバカイン0.25、0.5%、メピバカイン1、2%、リドカイン1、2%などがあります。
- ロピバカインは低濃度において運動神経遮断作用に比べ痛覚遮断作用が強いため、術後鎮痛によく用いられます。
硬膜外麻酔施行の標準的な手順
- 一般的に、術前に硬膜外カテーテルを留置し、カテーテルを通じて、局所麻酔薬の単回投与または持続投与を行います。硬膜外カテーテルは、術後も継続して使用可能です。
- 基本的に、術前に意識下で施行され、側臥位で行います。
- (1)穿刺部位を決定:手術部位と術式に応じて必要な麻酔範囲の、なるべく中央の椎間を選択します。
- (2)穿刺・硬膜外カテーテルの留置:Tuohy針を用いて穿刺を行います。
- カテーテル留置後、吸引を行い、血管穿刺による血液や硬膜穿刺による髄液の逆流がないか確認します。
- テストドーズ: アドレナリン添加1~2%リドカインまたは術中に使用する局所麻酔薬(必要に応じてアドレナリン添加)を2~3mL、留置カテーテルより硬膜外腔に注入し、脊髄くも膜下麻酔になっていないこと、ならびに血管内誤投与でないことを確認します。
- (3)術中投与:局所麻酔薬6~12mLほどの単回投与がよく用いられます。長時間手術の際には、間欠投与または持続投与が用いられます。
- (4)術後投与:術後も継続して、留置カテーテルから局所麻酔薬を投与して、術後鎮痛が可能です。術後鎮痛には、通常、0.2%ロピバカインなどの低濃度の局所麻酔薬を充填した持続注入ポンプを用いた持続投与が用いられます。
※薬剤のご使用の際は、各製品の添付文書をご確認ください。
参考資料
- 「標準麻酔科学 第5版」医学書院, 2006
- 「麻酔科学スタンダード 1.臨床総論」克誠堂出版, 2003