全身麻酔薬や局所麻酔薬の性質と作用機序の解説や、気をつけたい合併症・偶発症についての解説を全10話に渡ってご紹介いたします。
監修
札幌医科大学医学部麻酔科学講座 教授 山蔭 道明 先生
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局所麻酔において生じる合併症・偶発症のうち、硬膜外麻酔に関する合併症・偶発症についてみていきましょう。
硬膜外麻酔に関連するおもな術中合併症・偶発症
血圧低下
- 硬膜外麻酔によって、交感神経が抑制されることで、血管拡張と静脈還流量の減少が生じ、血圧が低下します。全身麻酔併用時には、全身麻酔薬による交感神経の抑制もあり、より生じやすくなります。持続局所麻酔薬投与による術後鎮痛の際にも生じることがあります。程度に応じて、輸液と昇圧薬投与で対処します。
徐脈
- 心臓交感神経が遮断されることにより、徐脈が現れることがあります。処置が必要でない場合もありますが、用時、アトロピンやエフェドリンで対処します。
呼吸困難・呼吸停止・循環抑制
次のような原因が考えられます。
- 1.脊髄くも膜下腔注入:
硬膜外麻酔では通常、脊髄くも膜下麻酔よりも大量の局所麻酔薬を投与するため、硬膜外麻酔のつもりで脊髄くも膜下腔に局所麻酔薬を注入すると、広範囲の脊髄神経が麻痺することによって、血圧低下および呼吸困難をきたし、重篤な場合、呼吸停止となります。直ちに人工呼吸管理を行い、輸液と昇圧薬投与によって血圧の維持をはかります。 - 2.局所麻酔薬中毒:
血中局所麻酔薬濃度の上昇に伴い、舌のしびれやふらつき、不安、多弁、筋攣縮などの中枢神経症状に続き、意識消失、痙攣、昏睡、中枢抑制、呼吸停止、循環抑制などが生じます。用時、人工呼吸管理を行います。また、振戦や痙攣が著明であれば、ジアゼパムまたは超短時間作用型バルビツール酸製剤(チオペンタールナトリウム等)を投与します。心機能抑制に対しては、カテコラミン等の昇圧剤を投与します。心停止時には、直ちに心マッサージ等の蘇生術を開始します。
舌のしびれ・ふらつき・筋攣縮
- 局所麻酔薬中毒による中枢神経症状である可能性があります。このような症状が発現した場合には、重篤な症状へ移行することがあるので注意が必要です。
脊髄くも膜下腔からの髄液漏出
- 硬膜外針穿刺時やカテーテル挿入時に、誤って硬膜を穿刺すると、脊髄くも膜下腔から髄液が漏出してきます。髄液の漏出に伴い、頭痛が生じる場合があります。通常、安静臥床と十分な輸液で軽快しますが、時に鎮痛薬の投与を行います。重篤な頭痛が続く場合、自己血10mLほどを無菌的に硬膜外腔に注入することで、硬膜の穴がふさがり、頭痛が解消されます(自己血パッチ療法)。
※薬剤をご使用の際は、各製品の添付文書をご確認ください。
硬膜外麻酔に関連する術後に現れるおもな症状・合併症
カテーテル抜去困難
- 棘突起による圧迫、結節形成、カテーテルのからみなどにより、カテーテル抜去困難となることがあります。このとき強く引っ張るとカテーテルが断裂して、体内に一部が残存することがあります。カテーテル挿入時の体位にすると、容易に抜去できることがあります。
排尿困難・尿閉
- 局所麻酔薬による骨盤神経と陰部神経の麻痺により起こります。膀胱カテーテルを留置して対処します。オピオイドを併用する場合にはオピオイドによっても尿閉は起こります。
排硬膜外血腫
- 硬膜外針やカテーテルにより血管を傷つけたとき、通常は自然に止血されますが、止血されないときに、硬膜外血腫が生じることがあります。抗凝固薬や抗血小板薬投与時に危険性が高まります。疑われる場合には専門医に相談し、MRI検査等を行います。神経症状が進行する場合には、緊急除圧術を実施します。
硬膜外腔感染・硬膜外膿瘍
- 硬膜外腔穿刺時またはカテーテル挿入部位から細菌感染が生じることがあります。予防法として、硬膜外腔穿刺時ならびにカテーテル挿入時の無菌操作を遵守し、カテーテル挿入後は挿入部位を清潔に保つことが挙げられます。
- ※薬剤をご使用の際は、各製品の添付文書をご確認ください。
参考資料
- 「標準麻酔科学 第5版」医学書院, 2006
- 「麻酔科学スタンダード 1.臨床総論」克誠堂出版, 2003