全身麻酔薬や局所麻酔薬の性質と作用機序の解説や、気をつけたい合併症・偶発症についての解説を全10話に渡ってご紹介いたします。

監修

札幌医科大学医学部麻酔科学講座 教授 山蔭 道明 先生

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硬膜外麻酔より相対的に手技が易しいとされる、脊髄くも膜下麻酔についてみていきましょう。下半身の局所麻酔で、短時間で済む術式では頻用されます。

脊髄くも膜下麻酔の作用機序と特徴

  • 脊髄くも膜下麻酔では、脊髄くも膜下腔に局所麻酔薬を注入し、脊髄につながる前根と後根ならびに脊髄外層の間で自律神経、感覚神経、運動神経を可逆的に遮断します。
  • おもに下半身の麻酔に用います。
  • 脊髄くも膜下麻酔の一般的な長所は次の通りです。
  • 術中に意識を保てる。
  • 少ない道具で手技を実施できる。
  • 局所麻酔薬の使用量が少なくて済む。
  • 内分泌代謝への影響が少ない。
  • 脊髄くも膜下麻酔の一般的な短所は次の通りです。
  • 間欠投与はできないため、調節性に乏しい。
  • 持続脊髄くも膜下投与は一般的ではないため、手術時間が限られる。
  • 血圧低下などの循環動態への影響が著しい。
  • 副作用として、脊麻後頭痛が多い。

脊髄くも膜下麻酔に用いられる局所麻酔薬

  • 脊髄くも膜下麻酔に現在使用されている局所麻酔薬は、ブピバカイン、ジブカイン、テトラカインです。

脊髄くも膜下麻酔用製剤の「比重」と、術中体位

  • 市販の脊髄くも膜下麻酔用注射剤のうち、髄液密度より密度が大きい高比重液は、髄液中を低い方に移動します。また、髄液密度と密度がほぼ等しい等比重液は、髄液中に拡散し、患者個体差にもよりますが、重力の影響は低いとされています。
  • 頭高位をとれば、高比重液は注入位置より尾側に広がり、頭低位をとれば、高比重液は頭側に広がります。注入後、必要範囲の麻酔が得られれば、水平に保ちます。

※薬剤のご使用の際は、各製品の添付文書をご確認ください。

脊髄くも膜下麻酔に用いられる局所麻酔薬と市販製剤脊髄くも膜下麻酔における体位と局所麻酔薬の拡散

脊髄くも膜下麻酔における局所麻酔薬の標準的な投与手順

  • 一般的に、脊髄くも膜下麻酔では、局所麻酔薬を単回投与します。
  • 通常、以下の手技がよく使われます。
  • サドルブロック:高比重液をL5~S1間に注入
  • 低位脊髄くも膜下麻酔:等比重液をL4~L5間に注入、または高比重液をL4~L5間に注入
  • 高位脊髄くも膜下麻酔:高比重液をL2~L3間またはL3~L4間に注入
  • (1)使用麻酔薬と穿刺部位を決定:術式に応じて必要な麻酔範囲に対応するように、注射剤の比重(高比重液か等比重液か)と、穿刺部位の組合せを決めます。
  • (2)局所麻酔薬の投与:脊麻針を用いて、術前に意識下で行います。

※薬剤のご使用の際は、各製品の添付文書をご確認ください。

脊髄くも膜下麻酔施行の標準的な手順
参考資料
  • 「標準麻酔科学 第5版」医学書院, 2006
  • 「麻酔科学スタンダード 1.臨床総論」克誠堂出版, 2003